道のり17 入院治療

1991年2月14日。30歳の私は聖バレンタインデーの朝、京都の高雄病院に入院した。この日、京都の街は吐く息が白くなるほど寒く、小雪が舞っていた。

この病院を最初に知ったのは、ある週刊誌の記事だった。

そこにはステロイドに依存せず漢方や鍼灸、絶食療法等、東洋医学的なアプローチで治療に取り組む患者の様子が紹介されていた。

「こんな病院もあるのか・・・」

まだ当時はそれほど関心が無かったものの、ステロイドに依存しない医療機関の存在は気になっていた。

脱ステロイド療法によるリバウンド後、感染症の難は逃れたものの、とても仕事など出来る状態ではなかった。

当然、そのまま地元の病院で入院治療を続ける選択肢はあった。

が、ステロイドだけの治療にはもうウンザリしてこともあり、いろいと迷った挙句、最終的にはこの高雄病院に入院することにした。

念のため、事前に問合わせてみた。

「治療に際してステロイドを強制することはありませんか?」

「患者さんの拒む治療を強制することはありません」

私は即、入院の手続きを済ませた。

あの時、本音を言えばステロイドを使わない医療機関ならどこでも良かった。

常識的に考えれば、「何もそこまで・・・」となるだろう。

だが当時の私にとって、このことはもはや理屈では無かった。ステロイドに対する恐怖とか憤り等、とにかくもう頭では整理できないグチャグチャしたものが身体に染み付いていた。

後になって判ったことだが、この時期、私が高雄病院に入院できたのは奇跡的なことだった。

当時、この病院には全国からアトピーの入院希望者が殺到しており、春、夏、冬の長期休みには予約の学生が押し寄せるとのことだった。

ところが、私が病院に電話を入れたのは2月14日。この時期、学生は入試やら年度末の試験やらで大忙し。

そんな折、予約にキャンセルが入り、個室に空きがでた。そんな理由から、私は入院することができた。

実際に入院してみると、この病院は東洋医学一辺倒のイメージではなく、西洋医学的な検査機器や設備も充実しており、漢方や鍼灸だけでなく心理療法や太極拳も取り入れていた。

結果的には、この病院での入院経験が私のアトピーを完治させる大きな転機となった。

だが入院したばかりの私は「アトピーが治る」なんてことは、もう期待しないようにしていた。

「期待して裏切られるよりも、最初から何も期待しない方がいい」

そんな気持ちだった。