始めてステロイドを内服したのは、大学2年の時だった。
この頃になるとアトピーは全身に広がり、無事なのは顔だけとなった。昼間は比較的穏やかな慢性的痒み、夜になると発作的な激しい痒みに襲われる日々が続いた。
そんなある日、親戚のおばさんから連絡があった。
彼女は私がアトピーであることを心配して、以前から何かと情報を収集してくれていた。
それは、大阪府の堺市にある病院の情報だった。
この病院ではアトピー患者にピンクの錠剤が処方され、それを服用した数日後には「痒みと同時に炎症まで消える」との話だった。
実際、彼女の知人もこの内服薬ですっかり良くなったとのこと。
「そーゆうことか!」
内服薬と聞いて、私は妙に納得した。
「今までアトピーが治らなかったのは内服薬じゃなかったからだ!」とさえ思った。と言うのもこの頃、アトピーが単なる皮膚の病気ではないことに薄々感じ始めていたからだ。
期待は自ずと膨らんだ。
が、その病院へ行く選択肢は車しかない。結局、父に連れて行ってもらうことにした。
到着後、私は異様な光景を見ることになる。
まず驚いたのは患者の数だった。待合室には患者が溢れ、通路まで列をなしていた。
その数に圧倒されながら受付を済ませると、そこには真っ赤な顔をした患者が数人、順番を待っていた。
実はこの時、私はアトピーが顔に出る病気であることを知らなかった。
今まで通院していた皮膚科でも、顔に症状が出ている患者は見たことがなかった。
「何の病気だろう?」
彼らを観てもアトピーとは思えず、全然違う病気に思えたのだが、まさか十年後、自分が同じ姿になるとは夢にも思っていなかった。
3時間ほど待って、私の名前が呼ばれた。
診察室には、温厚で優しそうな40代の医師が座っていた。
私は、いきなりピンクの錠剤の話を切り出した。
医師は私の話を聞き終えると、こう説明した。
「この薬で痒みは止まる」
「でもそれは一時的に症状を抑えているだけ」
「決して治った訳ではない」
「この薬は強いため1週間分しか出せない」
「来週、必ず様子を見せに来ること」
確か、このような主旨だった。
このピンクの錠剤を処方するにあたり、何度も念押しされたのは「決して治っていない」から、「必ず来週、様子を見せにくること」。この2点だった。
私はこの二つを約束した。
そしてピンクの錠剤とは別に2種類の軟膏を出されたが、医師はその使い分けをいちいち丁寧に説明してくれた。
「これじゃ時間が掛かる訳だ・・・」
診察を終えて疲れ切ってしまった私は、父の待つ車に向かった。