甲田療法は厳しさにおいて定評のある療法で、いざやってみると次から次へと障壁が立ちはだかった。
まず玄米菜食とは365日、来る日も来る日も玄米と野菜だけを食べ続ける訳で、それ以外のものは一切口にしないことを意味する。
当然、生易しいものではない。と言うか、入院するならともかく、会社勤めをしながら続けることができるような食生活ではなかった。
そもそも、それまで玄米なんて一度も口にしたことがなかったので、炊き方はおろか、どこで売っているのかさえ知らない有様。
今なら玄米はスーパーで簡単に入手可能だし、ネットで注文すれば翌日には配達される。
だが当時は、直接お米屋さんに頼むか、健康食品店に行くしかなかった。
それに炊飯器も玄米の炊ける機能なんて無いので、わざわざ圧力鍋を購入して炊いていた。が、これには最初は興味本位でノリノリだった妻がまず音を上げた。
「もうムリやわ・・・」
そりゃそうだ。
自分だって好きで玄米を食べている訳ではない。アトピーを治したい一心で我慢しているだけなのだ。我慢して、妻が玄米を食べる理由はない。
また玄米菜食は根菜類の野菜が唯一の副食なのだが、肉類や魚が厳禁となると、これを実践するのはまずムリだった。
まず営業職である以上、会食は避けられないが、その場合、「私アトピーを治したいので野菜以外は食べません」なんてことはとても言えない。と言うか、玄米と野菜しか食べないなんて言うと、逆に「コイツ、どんだけ偏食なん?」と思われるような気がした。
結局、適当な理由を付けて、会食の席をお断りする回数を増やしたが、こういうことがいちいち面倒で、ストレスの溜まる作業だった。
ただこれは対外的なことであり、当然、内面的には「食べたい!」と言う猛烈な欲求に襲われた。
そして、その欲求は何度も爆発した。
リバウンドである。
元々、食べたくないから食べないのではない。
本当は食べたいのだが、アトピーを治したい一心でそれを我慢しているだけなのだから、自然な流れとして、食欲は何度も爆発した。
このことに対して当時の私は、自分が意志の弱いダメな人間に墜ちたようで、何度も自己嫌悪に陥った。
そして、その自己嫌悪は次第に食べることに対する罪悪感に変化した。
この体験から、過激なダイエットから拒食症になるパターンの人の気持ちが、私にはわかる気がする。
甲田療法を開始して半年が経過した頃、私の体重は激減していた。
が、それは健康的ではなく、あまりにも不自然な痩せ方だった。
一方、アトピーの方はと言うと、皮膚の炎症が「少しだけマシになったかな?」と感じる程度。
では、このまま甲田療法を続けていればどうなったのか?
正直、それはよく分からないのだが、私には甲田療法は厳し過ぎた。
自分なりに頑張ってはみたが、これ以上続けることは無理だった。
この時の挫折感は、いまも憶えている。ショックだった。
その理由は、私は実際に甲田療法で難病(膠原病)を克服された女性とお逢いしたことがあったからだ。
マスコミは彼女を何度も取材したのだが、私は直接、彼女が営む健康食品のお店に足を運び、個人的にも良くして頂いていたのだ。
だから甲田療法を断念した時は、彼女に対する申し訳ない気持ちにも重なり、落ち込んだ。
やれば治る。
そのことは生き証人もいてわかっているのに、できない。
期待が大きかった分だけ、落ち込みも大きかった。
その後、私は民間の薬局が主催する無料セミナーに参加。脱ステロイド療法を試みるも、強烈なリバウンドを体験。同時に感染症を併発して敗血症から九死に一生を得た。