アトピー? それ医者が治してくれるんでしょ?
いつも「変化」が目に見えるとは限らない。
自分の知らない所で、アトピーは確実に悪化していた。
数日後、あの痒みが戻ってきた。
「ん?またか?」
相変わらず、他人事のようだった。
熱が出るとか出血とか、そういうことではないから生活に支障はない。しかも痒くなるのは入浴後だけ。
「薬で痒みが消えるなら結構なことだ」
全然、真剣になれなかった。痒くなれば薬を塗る。痒くなければ何もしない。この繰り返し。
生活習慣を見直すなんて発想は、全然ない。
頭の中は女子のことばかり。
この点、ごくごく普通の健全な男子高校生だった。
ある日、塗り薬が無くなった。
仕方がないのでまた皮膚科へ行った。
その時初めて、医者から病名を知らされた。
「アトピー性皮膚炎ですね」
「アトピー?」
知らん。そんな単語。「皮膚炎」なら想像は付く。が、「アトピー」の意味がわからない。
「それ、病気ですか?」
聞くしかなかった。
「まあ、病気と言うほどでもない」
そんな返答だったと思う。
その後、採血して前回と同じ軟膏を貰った。
二週間後、検査の結果が出た。
「ダニとハウスダストですね」
この瞬間、私は自分の血管の中でダニが泳いでいる姿を想像していた。
その後、一通りアレルゲン検査の説明を聞いた。が、特に指示はなかった。「治るのか?」と言う疑問が頭によぎったが、何も聞かなかった。
「医者は全てお見通し」
「患者が口を出す必要はない」
そんな風に思っていたからだ。
事実、風邪もハシカも中耳炎も水疱瘡も、医者は全て治してくれた。
「家を建てるのは大工の仕事」
「病気を治すのは医者の仕事」
医者に治せない病気なんてない。
アトピーも同じ。
「任せておけばいいのだ」医者の言うことを真面目に聞いてりゃそのうち治る。
当時の私は、本気でそう信じていた。