道のり8 ピンクの錠剤

始めてステロイドを内服したのは、大学2年の時だった。

この頃になるとアトピーは全身に広がり、無事なのは顔だけとなった。昼間は比較的穏やかな慢性的痒み、夜になると発作的な激しい痒みに襲われる日々が続いた。

そんなある日、親戚のおばさんから連絡があった。

彼女は私がアトピーであることを心配して、以前から何かと情報を収集してくれていた。

それは、大阪府の堺市にある病院の情報だった。

この病院ではアトピー患者にピンクの錠剤が処方され、それを服用した数日後には「痒みと同時に炎症まで消える」との話だった。

実際、彼女の知人もこの内服薬ですっかり良くなったとのこと。

「そーゆうことか!」

内服薬と聞いて、私は妙に納得した。

「今までアトピーが治らなかったのは内服薬じゃなかったからだ!」とさえ思った。と言うのもこの頃、アトピーが単なる皮膚の病気ではないことに薄々感じ始めていたからだ。

期待は自ずと膨らんだ。

が、その病院へ行く選択肢は車しかない。結局、父に連れて行ってもらうことにした。

到着後、私は異様な光景を見ることになる。

まず驚いたのは患者の数だった。待合室には患者が溢れ、通路まで列をなしていた。

その数に圧倒されながら受付を済ませると、そこには真っ赤な顔をした患者が数人、順番を待っていた。

実はこの時、私はアトピーが顔に出る病気であることを知らなかった。

今まで通院していた皮膚科でも、顔に症状が出ている患者は見たことがなかった。

「何の病気だろう?」

彼らを観てもアトピーとは思えず、全然違う病気に思えたのだが、まさか十年後、自分が同じ姿になるとは夢にも思っていなかった。

3時間ほど待って、私の名前が呼ばれた。

診察室には、温厚で優しそうな40代の医師が座っていた。

私は、いきなりピンクの錠剤の話を切り出した。

医師は私の話を聞き終えると、こう説明した。

「この薬で痒みは止まる」
「でもそれは一時的に症状を抑えているだけ」
「決して治った訳ではない」
「この薬は強いため1週間分しか出せない」
「来週、必ず様子を見せに来ること」

確か、このような主旨だった。

このピンクの錠剤を処方するにあたり、何度も念押しされたのは「決して治っていない」から、「必ず来週、様子を見せにくること」。この2点だった。

私はこの二つを約束した。

そしてピンクの錠剤とは別に2種類の軟膏を出されたが、医師はその使い分けをいちいち丁寧に説明してくれた。

「これじゃ時間が掛かる訳だ・・・」

診察を終えて疲れ切ってしまった私は、父の待つ車に向かった。