道のり1 ステロイド離脱

手を伸ばせば届きそうな願いや幸福。人生にはそんなチャンスが一瞬で吹き飛んでしまう瞬間がある


15年間使用していたステロイドを切ろうと決心したのは1991年、30歳の時だった。

「このままではアトピーを治せない・・・」

そんな思いからだった。

世間ではステロイドバッシングが過熱。ステロイドは「悪魔の薬」と呼ばれ、「ステロイド廃人説」まで流れる始末。患者が皮膚科医に詰め寄る事態にまで発生した頃の話だ。

キッカケは、漢方薬局の無料カウンセリング。

「ステロイドの悪い毒を出し切らない限りアトピーは治りません!」「症状は一時的に悪化します」「でもそれは好転反応」「これを乗り切れば大丈夫!」「期間は3か月。一緒に頑張りましょう!」

自称「漢方医」を名乗るカウンセラーの表情は自信に満ちていた。

アトピー患者を対象に無料カウンセリングを開催、ステロイドの恐怖を煽る一方、自社の製品を売りつけるビジネスが定着し始めたのもこの頃だ。

ちなみに、日本では医師免許の無い者が医師を名乗ることは法律違反だが、当時はステロイドバッシングを背景に、医者でもない人間が独自のアトピー理論を展開、早い話が「何でもアリ」の時代だった。

「ステロイドを切ればアトピーが消える!」

ステロイドを止めるキッカケが、このカウンセリングだったことは間違いない。またマスコミや民間療法によるステロイドバッシングが背景にあったことも事実。

だが決定的だったのは、このまま皮膚科での治療を続けても治る可能性を見出せなかったこと。

これに尽きる。

外出する時は常にステロイド持参。食事を抜くことはあっても、ステロイドを塗らない日はない。

元々、医師の話ではステロイドでアトピーをコントロールする筈だった。が、気が付けば自分がアトピーにコントロールされる側になっていた。

その結果、当時の私の生活はもうステロイド無しでは成り立たなくなっており、そのこと自体が日々の大きなストレスだった。

もちろん、ステロイドを切るには不安もあった。

ステロイドは使用期間が長ければ長いほどリバウンドのリスクも高くなる。と言われていた。

私の場合、それ相応のリバウンドは覚悟が必要で、下手をすると失職の可能性もあった。

「ステロイド・・・」
「切る・・・切らない・・・・」

1週間悩んだ。

そして1991年12月。

私は、ステロイドを切る決心をした。

「ステロイドの悪い毒が出尽くせば治る!」と言うカウンセラーの言葉に賭けたのだ。

だが、この判断が後々とんてもない事態を招くことなど、この時は知る筈も無かった。

この時期、私にはどうしてもアトピーを治しておきたい理由があった。

それは翌年の4月、栄転が決まっていたからだ。

既に内示も出ていた。ここでアトピーと決別できれば、私の人生は輝かしいものになる筈だった。

「目安は3か月!」
「ここを乗り切ればもう大丈夫!」

カウンセラーの言葉は魅力的だった。

「今ならまだ間に合う!」
「とにかく3か月の我慢だ!」
「その後は新しい世界が待っている・・・」

新しい職場、新しい顧客、彼らは私がアトピーだった過去は知らない。

気持ちは高まった。が、それは私から理性が飛び、希望的観測だけが独り歩きした瞬間でもあった。


道のり2 リバウンド