入院した日の夕方、主治医と「治療方針」に付いて話す機会が設けられた。
「治療方針?」
今まで医療機関でそんなもの聞いたことがない。アトピーの治療と言えばステロイドを塗るだけ。で、効かなくなればランクを上げる。これだけ。甲田療法を除けば、これが私の知るアトピー治療の全てだった。
本音を言えば、「治療方針」なんてどーでもよかった。
「どーせ何をやってもアトピーは治らないのだ・・・」
「方法はある。でもそれはできない・・・」
コレが当時、甲田療法で落ちこぼれた私の心境だった。
いづれにしても、もうアトピーが「治る」なんて思えない。
だから漢方でも鍼灸でもいいので、とにかくステロイドを使わず、働けるようにして欲しかった。
当時、ステロイドを頑なに拒否する患者に対して「理由が分らない」と思うかもしれないが、私自身、もしあのリバウンドの経験がなければ、同じように考えると思う。
人生には自分自身で実際に経験してみないと分からないことは多いが、ステロイドを頑なに拒否する患者はまさにこれだ。
そんな私の気持ちを察したからなのか、主治医は最初にステロイドによる治療を勧めたものの、結果的には私の希望を全面的に受け入れてくれた。
そして、最後にこう付け加えた。
「病院では無意味な制限はしない。それはアトピーが自己管理を要求される病気だからで、治すのは医者ではなく患者さん自身。そのため病院ではスタッフ全員で君をフォローする」
そんな主旨だった。
人は、その時自分の置かれた状況や精神状態によって言葉の意味や重みが違ってくるが、主治医のこの言葉は私のアタマではなく、心と体全体に突き刺さった。
「アトピーは自己管理が要求される病気」
「治すのは医者ではなく患者自身」
甲田療法の挫折から学んだものがあるとすれば、まさにこれだった。
主治医との面会が終わった後、私は自分の中に「覚悟」のようなものが芽生え始めているのを感じた。
「家を建てるのは大工の仕事」
「病気を治すのは医者の仕事」
「医者の言うことを聞いてりゃそのうち治るだろう・・」
それまで自分が抱いていた幻想を捨てた。
私は初めて、真剣に自分自身と向き合う決心をした。