絶食療法が始まった。
絶食と言えば、修行僧が行う厳しい断食のイメージだが、私のやった絶食療法はそのようなものとは違った。
事前に血液検査、尿検査、胸部エックス線、心電図等、一通りの検査を済ませた後、最初の二日間で食事のカロリーを落とし、三日目からは「すまし汁」だけの食事を三日間、その後は二日間で食事のカロリーを戻す。
この一週間のスケジュールを、「ワンクール」と呼んでいた。
玄米からスタートする食事は七分粥、五分粥、三分粥とお米の量が減り、すまし汁だけの断食に入る直前には重湯だけとなった。
が、実際にやってみると、思った以上の空腹感は無かった。と言うか、甲田療法と比べると、食事に対する精神的ストレスは桁違いに楽だった。
絶食療法の目的は慢性的な疲労状態いある内臓に休息を与え、溜め込んだ体内の老廃物をリセットすることだが、その老廃物の典型が宿便だった。
宿便とは腸内細菌の死骸と超粘膜の剥がれたもので、体験者によると強烈な臭いのするコールタール状の便や血便、黒褐色の便が大量に出るらしい。
私の場合、「これが宿便か!?」と思うような決定的な便は出なかった。が、この期間中に爽快感を伴う大量の便が出たことは事実だ。
変化が生じたのは、絶食療法を開始した十日目だった。
十日目と言えばワンクールが終了した後、2クール目に入って三日目の頃だ。
全身の皮膚の炎症が引き始めて、痒みが随分とマシになったのだ。併せて、酷かった顔の赤い斑点が消え、ジュクジュクした額の腫れも引き始めた。
その夜、私は夜中一度も目を覚ますことなく朝を迎えることができた。
今まで散々お金と時間を掛けてきても良くならなかったアトピーが、たった十日の絶食療法で改善している現実に、私はただただ驚いていた。
「何をしてもよくならなったアトピーが、何もしない絶食療法でよくなっている・・・・」
こうなると、今までの考え方、いや価値観さえも揺らぎ始めた。
それまで大切だと思っていたものの価値が消え、常識だと思っていたもものが非常識に変わる。そんな気がした。
が、その一方で、こんな心のつぶやきも聞こえた。
「いやいや、早合点するな。喜ぶのはまだ早い。期待するな。また裏切られるぞ・・・・」
今まで、アトピーには散々裏切られてきた。
今さら少しくらい症状が好転したところで、どうせ最後はまた痛い目に遭うのだ。
当時の私はもう「慎重さ」を通り越して、「卑屈さ」が身に付いてしまっていた。